久しぶりに着物を出してみたら、独特のにおいがした、たたみ目に黄ばみが出ていた、虫食いの跡を見つけた、という経験を持つ方は少なくありません。着物は、絹をはじめとする天然素材でできているものが多く、湿気や虫、光、折り目の圧力といった環境の影響を受けやすい衣類です。収納の仕方次第で、数年後の状態に大きな差が出ます。
この記事では、着物の収納方法を、たとう紙の使い方、収納場所の選び方、湿気と虫への対策、虫干しの考え方という順番で整理します。タンスがない、収納スペースが狭いといったご家庭向けの工夫や、帯や小物の保管方法も紹介します。素材や仕立て、収納環境で最適な方法は変わるため、気になる点は購入した呉服店や専門店に確認しながら取り入れてください。

着物の収納で気をつけたい4つのこと
収納を始める前に、着物が傷む主な原因を整理しておきましょう。
| 原因 | 起こりやすいこと | 基本の対策 |
|---|---|---|
| 湿気 | カビ、においの付着、黄ばみ | 風通しのよい場所、除湿剤、定期的な虫干し |
| 虫 | 虫食い、穴あき | 防虫剤の適切な使用、収納前の汚れ落とし |
| 光・熱 | 色あせ、変色 | 直射日光を避ける、暗めの場所で保管 |
| 折り目の圧力 | しわ、折りジワの固定化 | 薄紙を挟む、ときどきたたみ直す |
なかでも、日本の気候では湿気対策が収納の最優先事項になります。梅雨から夏にかけての高温多湿な時期は、特に注意が必要です。
収納前に済ませておきたいこと
陰干しで湿気を飛ばす
着たあとの着物には、目に見えない汗や水分がこもっています。そのまま収納すると、カビやにおいの原因になります。脱いだら着物用ハンガー(和装用ハンガー)に掛け、風通しのよい日陰で数時間から一晩ほど陰干ししましょう。
汚れの確認
衿元、袖口、裾など汚れやすい部分を確認します。目立たない汚れ、汗じみ、食べこぼしは、時間が経つほど落ちにくくなり、虫を呼び寄せる原因にもなります。汚れが気になる場合は、収納前に呉服店や、着物の手入れを扱う専門店(悉皆屋)に相談しましょう。
正しくたたむ
収納する前に、基本のたたみ方「本だたみ」でたたみます。折り目が新しい位置にならないよう、縫い目や元の折り目に沿って折るのがコツです。
たとう紙の使い方
たとう紙(畳紙)は、着物を包んで保管するための和紙製の入れ物です。通気性があり、湿気を適度に逃がしながら、ほこりや光から着物を守ってくれます。
- 着物は一枚ずつたとう紙に入れて保管します。複数枚をまとめて包むと、湿気が逃げにくくなります。
- 窓付きのたとう紙は中身が確認しやすい反面、光が当たる場所では色あせの原因になることがあります。収納する場所に合わせて選びます。
- 購入時のたとう紙が汚れていたり、黄ばんでいたりする場合は、新しいものに交換します。古いたとう紙は湿気を溜め込み、においやカビの原因になることがあります。
- ビニール袋や密閉容器に直接入れるのは避けましょう。通気性がなくなり、湿気が内部にこもります。
たとう紙は、着物専門店や通販で購入できます。サイズは着物用、帯用、長襦袢用などがあるので、収納する品に合わせて選びましょう。
たとう紙は「着物の衣」のようなものです。傷んだら新しいものに替える習慣が、着物の状態を保つことにつながります。
収納場所の選び方
桐たんすや桐衣装箱
昔から着物の収納には、桐製のたんすや箱が使われてきました。桐は調湿性があるとされ、着物を収納する素材として親しまれています。ただし、桐たんすも万能ではなく、置く場所が湿気ていれば効果は十分に発揮されません。置き場所の風通しや湿度も合わせて考えます。
押し入れ・クローゼット
桐たんすがなくても、押し入れやクローゼットで保管できます。押し入れの下段は湿気がたまりやすいため、すのこを敷く、壁との間に隙間を作る、押し入れ用の除湿シートを敷くなどの工夫をしましょう。収納ケースを使う場合は、通気性のある不織布製のものや、着物専用の収納ケースがおすすめです。
避けたい場所
直射日光が当たる場所、水回りの近く、暖房器具の近くは避けましょう。また、床に直接置くのも湿気の影響を受けやすいので、すのこや台の上に置きます。
圧縮袋を使って着物を小さくするのも避けたい方法です。生地が強く圧迫されて折りジワが残りやすく、湿気の逃げ場もなくなります。

湿気対策のグッズと使い方
湿気対策には、収納スペースに合ったグッズを使います。ここでは、よく使われるものを紹介します。
- 押し入れ用の除湿シート:敷くタイプで、湿気を吸収します。定期的に干して再利用できるものもあります。
- シリカゲルなどの乾燥剤:小さなものを収納ケースやたんすの隅に置きます。吸湿量の限界があるため、交換時期を確認します。
- 置き型の除湿剤:押し入れの隅などに置いて使います。水がたまる商品が多く、倒れて着物にかからないよう設置場所に注意します。
除湿グッズは、使い方や交換時期が商品ごとに異なります。パッケージの表示に従って使ってください。また、除湿剤を置いたから安心と考えず、定期的に収納を開けて風を通すことが大切です。
防虫剤の使い方
虫食いを防ぐために、防虫剤を使います。使い方には次の点に気をつけましょう。
- 異なる種類の防虫剤を同時に使わない:パラジクロルベンゼン・ナフタリン・しょうのうなどは、違う種類を併用すると衣類にシミや変色が出る場合があるとされます(ピレスロイド系は他の薬剤と併用できるとされています)。全国クリーニング生活衛生同業組合連合会の解説も参考になります。パッケージの注意書きを確認しましょう。
- 金糸・銀糸、金箔などが使われた着物や帯に使えない商品があります。パッケージの「使用できない衣類」の欄を確認してください。
- 防虫剤は着物に直接触れさせず、たとう紙の上や収納ケースの上部などに置きます。薬剤のガスは空気より重く、下に広がる性質があるといわれます。
- 使用期限や交換時期を守り、効果が薄れる前に新しいものに替えます。
着物専用や、引き出し用の衣類用防虫剤など、さまざまな商品があります。収納の広さに合った量を使いましょう。使い方に迷う場合は、購入した店で相談すると安心です。
防虫剤や除湿剤は、小さなお子さまやペットが触れない場所に置いてください。誤って口にしないよう、設置場所に気をつけましょう。
虫干しの考え方
虫干しは、収納している着物を広げて風に当て、湿気を飛ばす作業です。収納がうまくいっていても、年に数回は晴れて空気が乾燥した日に、風通しのよい日陰で着物を広げることをおすすめします。
一般的には、梅雨明け後、秋の乾燥した時期、冬の晴れた日などに行うとされます。直射日光は色あせの原因になるので、日陰で行います。時間は、半日程度が一つの目安です。
虫干しのとき、着物に異変がないか確認できるのも利点です。変色、カビ、虫食い、においなどがあれば、早めに専門店へ相談できます。虫干し後は、たとう紙も新しいものに替えるか、乾燥させてから戻します。
手間がかかると感じる場合は、全部の着物を一度にではなく、季節ごとに数枚ずつ入れ替えて風を通す方法もあります。完璧を目指さず、続けられるペースで行いましょう。
帯・小物・長襦袢の収納
帯は、着物と同じようにたとう紙に入れ、帯用の収納箱に収めます。袋帯や名古屋帯は、芯が入っていて厚みがあるため、折り目を強くつけず、ゆるやかな折りで保管するのがコツです。
帯揚げ、帯締め、草履、バッグなどの小物は、小物専用の仕切り付きケースに入れると、まとまって取り出しやすくなります。帯締めは丸めずに、ゆるやかに折って保管します。草履は湿気がこもりやすいので、箱に入れる前に乾燥させましょう。
長襦袢や肌襦袢、足袋などは、汗を吸っているため、洗濯表示に沿って洗ってから、完全に乾かしてから収納します。
収納スペースが足りないときの工夫
「着物を収納するスペースがない」と悩む方は多いです。次のような工夫があります。
- 着物専用の薄型の収納ケース(不織布製)をクローゼットの上段や押し入れで積み重ねる
- 使う頻度の低い着物は、保管サービスを提供する呉服店や業者に預ける(料金や保管条件は店ごとに異なるため、公式サイトで確認する)
- 着ない着物は、状態や将来の使い道を考え、手放すことも選択肢に入れる
保管サービスを検討する場合は、料金、期間、受け渡し方法、保険や補償の範囲を事前に確認しましょう。トラブルがあった場合は、国民生活センターや、お住まいの消費生活センターに相談することもできます。

着物の収納についてのよくある質問
Q. 着物はハンガーに掛けたままでもよいですか?
短期間の陰干しならよいのですが、長期間の吊るしっぱなしは避けましょう。生地の重みで肩や背の部分が伸びたり、ほこりがついたりします。保管するときはたたんで、たとう紙に入れます。
Q. たとう紙は何年くらいで交換しますか?
決まった年数はありません。黄ばみ、湿気、においが気になったら交換する目安にします。虫干しのタイミングで状態を確認すると、見逃しにくくなります。
Q. 桐たんすがなくても大丈夫ですか?
はい。押し入れやクローゼットでも、湿気対策と防虫対策をしっかり行えば保管できます。すのこや除湿グッズ、通気性のよい収納ケースを活用しましょう。
Q. 防虫剤は何個くらい置けばよいですか?
商品ごとに、収納スペースの大きさに応じた使用量が決まっています。パッケージの表示に沿って、使用量を守ってください。
Q. カビが生えてしまったらどうすればよいですか?
自分でこすったり、拭いたりすると、生地を傷めることがあります。カビを見つけたら、他の着物に広がらないようにして、早めに専門店に相談してください。
Q. 洗える着物の保管も同じ方法でよいですか?
洗える着物も、湿気や直射日光は避けます。化学繊維の着物は、湿気に強い面もありますが、ほこりや折りジワの対策として、たとう紙や通気性のあるケースで保管すると安心です。
まとめ
着物の収納で大切なのは、湿気を避けること、虫を防ぐこと、定期的に風を通すことの3つです。着たあとは陰干しをして、本だたみでたたみ、たとう紙に入れ、風通しのよい場所に収納します。除湿グッズや防虫剤は、パッケージの使い方を守り、種類を混ぜないようにしましょう。
年に数回の虫干しで状態を確認し、異変があれば専門店に相談します。完璧を目指さず、続けられる範囲で手入れを重ねていくことが、着物を長く楽しむ近道です。
参考:着物の染めや織りの産地・技法は民族衣裳文化普及協会の「染と織辞典」で調べられます。


